リユース業界のこれまでとこれから:変革の歴史と未来への展望

はじめに:成長を続ける3兆円市場
リユース業界は今、かつてない注目を集めています。2023年のリユース市場規模は前年比7.8%増の3兆1227億円に達し、2009年以降14年連続での拡大を記録しました。物価上昇が続く中、消費者の生活防衛意識の高まりや、環境意識の向上が市場成長を後押ししています。
かつて「中古品」という言葉にはネガティブなイメージが付きまといました。しかし現在では、サステナビリティへの関心の高まりや、フリマアプリの普及により、リユース品の購入や販売が日常的な行動として定着しています。この変化はどのようにして起こったのでしょうか。本コラムでは、リユース業界のこれまでの歴史を振り返り、今後の展望について考察していきます。
リユース業界の黎明期:バブル崩壊が生んだ新市場
日本のリユース業界の本格的な発展は、1990年代のバブル崩壊後に始まりました。長引く不況により、消費者は新品へのこだわりを失い、質の良い中古品を求めるようになりました。この時期、ブックオフやハードオフなどの大手チェーンが全国展開を開始し、「清潔で明るい店舗」というコンセプトで、従来の古物商のイメージを一新しました。
ブックオフは「本を売るならブックオフ」というキャッチフレーズで、駅前好立地に明るく清潔な店舗を展開し、新古本市場を創出しました。従来の古書店が持つ薄暗く敷居の高いイメージを払拭し、誰もが気軽に本を売買できる場所を提供したのです。
一方、ハードオフはフランチャイズ展開により、全国の幹線道路沿いに大型店舗を設け、家具や家電、楽器、スポーツ用品など幅広い商材を扱いました。家族層をターゲットに、週末のショッピングの選択肢としてリユースショップを位置づけることに成功したのです。
2000年代:オンラインオークションの台頭
2000年代に入ると、インターネットの普及により新たな変化が訪れます。1999年にサービスを開始したヤフオク!は、個人間でのオークション取引を可能にし、従来の実店舗では取引が難しかった商品も含め、多様な中古品の流通を促進しました。
パソコンを使った取引は、若者を中心に支持を集め、徐々に市場規模を拡大していきました。しかし、この時点ではまだパソコンを持たない層や、ネット取引に不安を感じる層も多く、実店舗型のリユースショップとオンラインオークションは棲み分けができていました。
メルカリショック:業界を揺るがした革命

リユース業界に最も大きなインパクトを与えたのが、2013年のメルカリの登場です。スマートフォンに特化したフリマアプリとして誕生したメルカリは、「誰でも簡単に売り買いできる」というコンセプトで瞬く間に普及しました。
メルカリの台頭により、リユース業界大手は2016年頃から買取不振に陥りました。消費者が不用品を店舗に持ち込む代わりに、メルカリで直接販売するようになったためです。実店舗型リユースショップは、在庫リスクや店舗運営費を賄うために買取価格を抑えざるを得ない一方、メルカリでは個人が直接購入者と取引できるため、より高値で売却できました。
メルカリがサービスを開始してからわずか3年で、取扱高は推計年間1200億円超に成長し、フリマアプリ市場全体も2016年には3000億円に達しました。この急成長により、2017年には「メルカリに食われる、リユース業界の悲鳴」といった報道が相次ぎ、業界関係者の間に危機感が広がりました。
逆境からの復活:店舗型リユースの反撃
しかし、メルカリの登場は必ずしもリユース業界全体にとって脅威だけではありませんでした。むしろ、フリマアプリの普及により、中古品への心理的抵抗が薄れ、リユース市場全体が活性化するという予想外の効果をもたらしたのです。
フリマアプリを体験した人々は、これまで売れると思わなかった不用品が実は売れるということに気づき、リユース市場全体が活性化しました。メルカリで商品を一つひとつ出品し、購入者と交渉し、梱包して発送するという作業を煩わしいと感じる層が、まとめて処分できる店舗型リユースショップの利便性を再評価するようになったのです。
ゲオホールディングスは、この変化をチャンスと捉え、セカンドストリートの積極的な出店攻勢を展開しました。セカンドストリートの店舗数は2019年3月時点で630店舗と、2014年の2倍近くに増加し、大手アパレル企業に匹敵する規模に成長しました。衣料品を中心とした総合リユースショップとして、都心に旗艦店を出店し、郊外で大型店を展開する戦略が功を奏したのです。
ブックオフも、メルカリショックによる業績悪化を受け、「本だけじゃないブックオフ」を掲げて抜本的な改革を実施しました。商材の多様化や店舗戦略の見直しにより、見事にV字回復を遂げ、業界大手としての地位を取り戻しました。
現在:多様化するリユースビジネスモデル
現在のリユース業界は、実に多様なビジネスモデルが共存する成熟市場へと発展しています。
**フリマアプリ(CtoC)**は、メルカリを筆頭に、個人間取引のプラットフォームとして確固たる地位を築いています。スマートフォン一つで手軽に売買できる利便性が、若年層を中心に支持されています。
**店舗型リユースショップ(BtoC)**は、ゲオ、ブックオフ、ハードオフ、コメ兵などが代表格です。商品をまとめて持ち込めば、その場で査定・買取してくれる利便性が評価されています。また、実際に商品を手に取って確認できる安心感も、店舗型の強みです。
宅配買取・出張買取サービスも急速に普及しています。重い家具や大型家電を自宅まで引き取りに来てくれる出張買取や、箱に詰めて送るだけの宅配買取は、高齢者や車を持たない層にとって非常に便利なサービスです。
専門特化型リユースショップも増加しています。ブランド品専門、トレーディングカード専門、アウトドア用品専門など、特定のカテゴリーに特化することで、専門知識を持つスタッフによる適正査定と、マニア向けの品揃えを実現しています。
さらに、2024年には、小売・流通企業やブランド・メーカーなどの一次流通事業者が自らリユースを推進するケースが増えてきました。自社製品の下取りプログラムや、リユース品の販売を開始するアパレルブランドが増加しており、これは循環型経済への関心の高まりを反映しています。
市場成長を支える要因
リユース市場が14年連続で成長を続ける背景には、複数の要因が絡み合っています。
物価上昇と生活防衛意識:物価上昇が続く中、消費者の生活防衛意識の高まりから、新品よりも割安なリユース品が注目を集めています。特に子育て世代にとって、すぐにサイズアウトする子供服や、成長に合わせて買い替えが必要なベビー用品などは、リユース品の需要が高い分野です。
環境意識の高まり:SDGsや循環型経済(サーキュラーエコノミー)への関心が世界的に高まる中、リユースは環境負荷を低減する有効な手段として認識されています。特に若年層を中心に、エシカル消費(倫理的消費)の観点からリユース品を選ぶ人が増加しています。
インバウンド需要の回復:訪日観光客によるインバウンド需要の回復も追い風になっています。日本のリユース品、特にブランド品や時計、家電製品などは、海外からの観光客にとって魅力的な商品です。
デジタル技術の進化:AIによる自動査定システムが精度を増し、査定士の負担軽減や人材不足の解消につながっています。また、在庫管理システムの高度化により、適正な価格設定や効率的な商品回転が可能になっています。
業界が抱える課題
急成長を続けるリユース業界ですが、いくつかの課題も抱えています。
競争の激化:新規参入企業の増加により、買取価格の競争が激しくなっています。適正な利益を確保しながら、顧客に満足してもらえる買取価格を提示するバランスが難しくなっています。
偽物・コピー品への対応:特にブランド品や時計などの高額商品では、精巧なコピー品が流通するリスクがあります。真贋鑑定のスキル向上と、万が一偽物を販売してしまった場合の保証体制の整備が求められています。
在庫管理の複雑さ:リユース品は新品と異なり、一つひとつ状態が異なります。膨大な商品点数を適切に管理し、販売機会を逃さないようにするための効率的なシステムが必要です。
人材不足:査定には専門知識が必要であり、経験豊富な査定士の育成には時間がかかります。特に専門性の高い商材を扱う場合、人材不足が事業拡大のボトルネックになることがあります。
法規制への対応:古物営業法や消費者保護法など、遵守すべき法令が多数あります。法令を適切に守りながら、柔軟なビジネス展開を行うことが求められています。
これからのリユース業界:2030年への展望
リユース業界の市場規模は、2025年には3.25兆円規模に拡大し、2030年には4兆円規模に達すると予測されています。今後も市場は拡大を続けると見込まれており、いくつかの重要なトレンドが業界の未来を形作るでしょう。
高齢化社会とリユースの融合:空き家の増加に伴い、不動産整理や遺品整理と連携したビジネスが成長しており、大型家具やアンティーク品の市場も拡大しています。今後、シニア層の資産整理がさらに進むことで、リユース業界の成長が期待されます。
テクノロジーの更なる活用:RFID(電子タグ)を活用した在庫管理の自動化や、ブロックチェーンを活用した商品の真正性保証など、デジタル技術の活用がさらに広がると予想されます。これにより、市場の信頼性向上と効率化が進むでしょう。
一次流通企業の本格参入:アパレルブランドや家電メーカーなどが自社製品のリユース事業を本格化させることで、新品とリユース品を統合した循環型ビジネスモデルが確立される可能性があります。これは単なる環境対策ではなく、新たな収益源としても注目されています。
海外市場への展開:日本のリユース品は品質の高さから海外でも高く評価されています。越境ECや海外店舗展開により、グローバル市場での成長機会が広がる可能性があります。
サブスクリプションモデルとの融合:リユース品を定額で利用できるサブスクリプションサービスや、一定期間使用後に買取保証するサービスなど、新しいビジネスモデルの実験も始まっています。
消費スタイルの変革を象徴する業界へ
リユース業界の成長は、単なる市場規模の拡大にとどまりません。それは、日本人の消費スタイルが根本的に変わりつつあることを示しています。
「新品こそが価値がある」という固定観念から、「必要なものを必要な期間だけ所有する」「質の良いものを長く大切に使う」「使わなくなったものは次の人へ」という、より持続可能な価値観への転換が進んでいるのです。
メルカリショックを乗り越え、多様なビジネスモデルが共存する現在のリユース業界は、まさに成熟市場としての段階に入りつつあります。しかし、4兆円市場への道のりはまだ半ばです。テクノロジーの活用、新たな顧客層の開拓、一次流通企業との連携など、イノベーションの余地は十分に残されています。
リユース業界のこれからは、単に中古品を売買する場所から、持続可能な社会を実現するための重要なインフラへと進化していくでしょう。消費者、事業者、そして社会全体にとって、より良い未来を創造するための挑戦が、今まさに始まっているのです。