ル・コルビュジエと家具 – 近代建築巨匠の家具デザインの世界
ル・コルビュジエの人物像と背景
ル・コルビュジエ(Le Corbusier、1887-1965)は、20世紀を代表する近代建築の巨匠として知られています。本名はシャルル=エドゥアール・ジャヌレ=グリで「ル・コルビュジエ」は雑誌編集者をしている頃のペンネームでした。ル・コルビジェはドイツのミース・ファン・デル・ローエとアメリカのフランク・ロイド・ライトと並ぶ近代建築三大巨匠の一人で、建築業界に革新的な影響を与えた「近代建築の五原則」を提唱し、この原則が、モダニズム建築の基礎となっています。
1887年にスイスで生まれ、地元の美術学校で学んだ後にウィーン、ベルリンで建築・工芸の新しい運動に触れ、パリでキュビスムの影響を受けました。彼の創作活動は建築にとどまらず、実は、コルビジェは建築だけでなく、家具のデザイン、街全体の都市計画にも関わるなど、非常に多彩な才能をもち、そして芸術家のような側面も持っていました。
建築家として有名になってからも絵を描き続け、画家としての顔も持っていたル・コルビュジエ。1918年に、画家オザンファンとキュビズムを純粋化させたピュリズム(純粋主義)を唱えて絵画を発表し、画家としてデビューします。この多彩な芸術的背景が、後の家具デザインにも大きな影響を与えることになります。かなり人気のデザインを多く輩出しているので当社でも積極的に買い取りいたします!
家具デザインへの取り組みと哲学
ル・コルビュジエの家具デザインは、彼の建築哲学と密接に関連しています。まるで建築のように構成された数々の家具。建築家として追求する美しさへのこだわりが家具の設計にも込められています。しっかりと計算された美しさ、美しさのバランスへのこだわりが、彼の家具作品の特徴となっています。
彼は家具を単なる装飾品としてではなく、機能的で実用的な「住むための機械」の一部として捉えていました。この思想は、彼が提唱した「住宅は住むための機械である」という有名な言葉と一致しています。家具もまた、人間の生活をより快適にし、効率的にするための道具として設計されるべきだと考えていました。
LCシリーズの誕生と共同制作者たち
1929年には、従姉妹のピエールとシャルロット・ペリンのコラボレーションで家具「LCシリーズ」を発表。シンプルで機能的なデザインは時代を超えて愛され続け、現在でもシリーズとして販売されています。
ル・コルビュジエと、その従兄弟ピエール・ジャンヌレ、若手デザイナーのシャルロット・ペリアンの3名による共同開発によって作られた家具のコレクション『LCシリーズ』は、『家具の歴史に大きな影響を与えた』として高い評価を受け、1928年当時に作られた作品群です。
協業者の役割
ピエール・ジャンヌレ(Pierre Jeanneret) ル・コルビュジエの従兄弟であり、建築パートナーでもあったピエール・ジャンヌレは、技術的な側面で重要な貢献をしました。特に構造的な問題の解決や、製造可能性の検討において彼の経験が活かされました。
シャルロット・ペリアン(Charlotte Perriand) 毛皮の選定など、官能性を盛り込んだシャルロット・ぺリアンの功績も大きい作品として、女性デザイナーとしての感性を作品に注入しました。彼女は特に素材選択や人間工学的な配慮において重要な役割を果たし、家具に温かみと実用性をもたらしました。
LCシリーズの詳細解説
LC1 スリングチェア
従兄弟のピエール・ジャンヌレ、シャルロット・ぺリアンとの共同デザインされた ル・コルビュジエの名品のひとつです「スリング」という名前のとおり、背面部分が固定されておらずフレームからつながる一本の軸に支えられているデザインです。
コルビジェ LC1 は一人掛けの スリングチェア です。 リクライニング機能を持ち、座った人の姿勢や動きに合わせて背もたれが自由に動きます。この革新的な機構により、使用者の体重と動きに応じて自然にリクライニングする機能を実現しました。
LC1の特徴は、その動的な性質にあります。固定された背もたれではなく、座る人の体重と動きによって角度が変化するため、一つの椅子で様々な姿勢をサポートします。これは、従来の静的な家具の概念を打ち破る革新的なアプローチでした。
LC2 グランコンフォール
スティールパイプのフレームに背、座、アームのクッションを落とし込んだデザイン。中材から張り込み素材まで厳選された上質素材が、このソファならではの抜群の座り心地を生み出しています。
LC2は「グランコンフォール(Grand Confort)」という愛称で親しまれており、最もスタンダードなデザイナーズソファであるLC2ソファですとして、今日でも高い人気を誇っています。
コルビジェLC2とLC3の違いは以下の3点です。 ・ソファの幅が違います。LC3はLC2よりも幅が広くなっています。特にLC3の3人掛けは幅240cmで超ワイド! ・座面の高さが違います。LC2の方がLC3よりも座面が高くなっています。 ・クッション構造が違います。LC2はダブルクッションですがLC3はシングルクッションです。
LC3 ソファ
グランコンフォールと呼ばれるLC2ソファから派生し、シングルクッションで構成されたシリーズ。LC2に比べ幅と奥行きが大きくなっているため、よりゆったりとした座り心地となっています。
続いてのLC3は、LC2に比べると座面の幅や奥行きに配慮したデザイン。ゆえにLC2では窮屈さを感じる方にも座りやすいです。また座面はLC2に比べて低めに作られており、ローソファとはいかないまでも上部が開放的になっています。
LC3ソファは全体の高さが60.5cmと低めでありながらワイドな横の広がりがあるので、部屋を広く見せる効果が期待できるソファになります。この特性により、空間をより開放的に見せる効果があり、現代の住環境にも適したデザインとなっています。
LC4 シェーズロング
LC4 Chaise Longue シェーズ・ロング コルビュジエ/コルビジェの一番有名な椅子、シェーズロング。この「傾きが連続的に変わるという寝椅子」は、 コルビュジェの独創性を伝えています。
「休養の為の機械」とル・コルビュジエが呼んだ寝椅子として知られるLC4は、人間工学に基づいた究極のリラクゼーション家具として設計されました。支持体である金属パイプフレームが描くゆったりした曲線の優雅さと、 座と背がひとつながりになって身体の線にあわせて 細かく曲げられた上面の人工工学的なアプローチ。 この2つの対象的な「線」の結合でコルビュジェは 伝統的なロッキングチェアに変わる 新しい安楽椅子を発想したものです。
現在では「LC4」として親しまれる「シェーズ・ロング」。彼の代表建築「サヴォア邸」(※5)の浴室には、この椅子とほぼ同様のカーブを描いたバスタブの縁がデザインされている。これは、彼の建築と家具デザインの一体性を示す重要な例です。
LC5 デイベッド
様々なタイプがあるLCシリーズですが、唯一入手困難とされるのがLC5。コルビジェ作のオリジナルは、本人が自宅用にと設計した1点しか存在しないとされています。そんなLC5はデイベッドソファでサイズも…非常に大きく、希少性の高いアイテムとなっています。
素材と構造の革新
LCシリーズの最も画期的な特徴の一つは、スチールパイプフレームの使用です。これは当時としては非常に革新的で、伝統的な木製フレームから金属フレームへの転換を示すものでした。
スチールパイプの採用理由
- 強度と耐久性: 木材よりも高い強度を持ち、長期間の使用に耐える
- 軽量性: 同等の強度の木材と比較して軽量
- 工業的美学: モダニズムの理念に合致した工業的な美しさ
- 大量生産への対応: 機械的な製造プロセスに適している
クッション構造の工夫
なおLC2、LC3共に、中のクッションはフェザーパッディングとポリエステルパッディングの2種類から選択することができます。座り心地で選ぶならフェザーがおすすめです。この選択制は、使用者のニーズに応じた快適性を提供するという、人間中心設計の考え方を反映しています。
時代背景と社会的意義
発表当時の反応
だが、時代を先取りし、装飾性を潔く排除した彼らの椅子は、「サロン・ドートンヌ」での発表直後、すぐさま世間に受け入れられることはなかった。これは、当時の人々にとってあまりにも革新的で、従来の家具の概念から大きく逸脱していたためです。
装飾を排したミニマルなデザインは、豪華絢爛な伝統的家具に慣れ親しんだ人々には理解されにくいものでした。しかし、この「装飾は罪である」というアドルフ・ロースの思想を体現したデザインは、やがて20世紀のデザイン界に大きな影響を与えることになります。
カッシーナ社による復刻と普及
多くの人に知られるようになったのは、1927年の創業以来、デインに対するこだわりが強いイタリアの家具メーカー「カッシーナ」社が復刻制作を始めたからだ。同社は、1964年、ル・コルビュジエ、ピエール・ジャンヌレ、シャルロット・ぺ…リアンの遺族から正式なライセンスを取得し、オリジナルに忠実な復刻生産を開始しました。
この復刻により、LCシリーズは単なる歴史的作品から、現代でも購入可能な実用的な家具として再び生命を得ることになりました。カッシーナ社の高い技術力と品質管理により、オリジナルの設計意図を損なうことなく現代に蘇らせることができたのです。
現代における評価と影響
美術館での永久収蔵
ニューヨーク近代美術館コレクション(1928年)として、LC4をはじめとするLCシリーズの多くがMoMAの永久収蔵品となっています。これは、これらの作品が単なる家具を超えて、20世紀デザイン史における重要な文化遺産として認められていることを示しています。
コーディネートの特徴
猫足のテーブルの高さが高めであり、LC2の高めの座面高とも差が少ないことと、奥のウッドのテーブルとLC2の背もたれの高さにも差が少ないことから、家具の高さがごちゃつかず、すっきりとした印象を与えているのもコーディネートのポイントです。
このように、LCシリーズは他の家具との調和を考慮して設計されており、空間全体の美的統一性を重視するモダニズムの理念が反映されています。
デザイン思想の特徴
機能主義の体現
ル・コルビュジエの家具デザインは、「Form follows function(形態は機能に従う)」というモダニズムの基本原則を忠実に体現しています。装飾的な要素を排除し、純粋に機能から導き出された形態美を追求しました。
人間工学への配慮
特にLC4シェーズロングに見られるように、人体の自然なカーブに合わせた設計は、当時としては非常に先進的な人間工学的アプローチでした。これは単なる美的配慮ではなく、使用者の身体的快適性を科学的に追求した結果です。
工業化時代への対応
手工芸的な一品制作から脱却し、工業的な大量生産を前提とした設計思想は、20世紀の産業社会に適応した革新的なアプローチでした。これにより、高品質なデザイン家具をより多くの人々に提供することが可能になりました。
後世への影響
デザイン界への影響
LCシリーズは、その後のモダンファニチャーデザインに計り知れない影響を与えました。スチールパイプフレーム、ミニマルなデザイン、機能性の追求といった要素は、多くの後続デザイナーたちの作品に受け継がれています。
現代の住環境との適合性
シンプルで機能的なデザインは、現代の都市型住宅やオフィス環境にも完璧に適合します。特に、限られた空間を効率的に活用する必要がある現代の住環境において、LCシリーズの合理的なデザインはより一層その価値を発揮しています。
まとめ
ル・コルビュジエの家具デザインは、単なる座る、横になるという基本機能を超えて、20世紀の新しい生活様式と価値観を提案するものでした。建築家としての空間に対する深い理解と、画家としての美的感性、そして時代を見据えた革新的思考が融合した結果、時代を超越した名作群が生まれました。
「ル・コルビジェ」家具は、まるで建築物のような美しさを讃えて 現代にも存在しています。これらの作品は、90年以上経った現在でも色褪せることなく、世界中の人々に愛され続けています。それは、真に優れたデザインが持つ普遍的な価値の証明であり、ル・コルビュジエの先見性と創造力の偉大さを物語っています。
現代においても、これらの家具は単なる歴史的遺物ではなく、実用的で美しい生活道具として機能し続けており、モダンリビングの理想を体現する存在として、これからも多くの人々の生活を豊かにしていくことでしょう。