
Zanotta(ザノッタ)は、戦後イタリアデザインを語るうえで欠かせない、ミラノ近郊発の老舗モダンファニチャーブランドです。

ブランドの成り立ちと時代背景

1954年にオーレリオ・ザノッタが創業し、当初はソファやアームチェアを中心としたアップホルスタリーのメーカーとしてスタートしました。 同じ家具でも「工房的な張り物」から一歩抜け出し、工業化とデザイン性を両立させたプロダクトをめざした点が大きな特徴です。
1960年代に入ると、イタリアのインテリアシーンは大量生産技術と新素材の登場で一気にモダン化が進みますが、Zanottaもこの潮流のなかで前衛的なデザイナーと組み、実験的な家具を次々と市場に投入していきました。 そうした姿勢が、のちに「イタリアンラディカルデザイン」「ポストモダンデザイン」の象徴的ブランドの一つとして評価される土台になっています。
代表的なプロダクトとデザイン性

Zanottaを語る上で外せないのが、1968年に発表されたビーズクッションチェア「Sacco(サッコ)」です。 ポリスチレンペレットを中材に用い、座る人の体に合わせて自在に形が変わる“ビーズソファ”の元祖とも言える存在で、チェアのタイポロジーそのものを問い直したアイコンピースとして多くの美術館コレクションに収蔵されています。
同時期に、世界初の量産インフレータブルチェアとされる「Blow」、フレームレス構造とポリウレタンフォームのみで構成した「Throw Away」シリーズなど、素材と構造に対する実験精神の強い作品を数多く世に出しました。 これらは“座れるオブジェ”のような存在でありながら、日常使用も可能なレベルまで落とし込まれている点がZanottaらしさと言えます。
その後も、アキッレ&ピエル・ジャコモ・カスティリオーニ、ガエ・アウレンティ、エットレ・ソットサス、アレッサンドロ・メンディーニ、エンツォ・マリなど、イタリアデザイン史に名を残すデザイナーとのコラボレーションを継続してきました。 ガラス天板と金属脚を組み合わせた「Gaetano」テーブルや、アルミダイキャストとレザーを用いた「Tonietta」チェアなど、機能性と造形性を緊張感あるバランスでまとめたプロダクトが多く、いずれもミュージアムピースとしても評価されています。
実験性を担うコレクションと思想

1980年代には、アレッサンドロ・メンディーニらが率いた実験部門「Zabro」を設立し、アートとデザインの境界を曖昧にするようなシリーズを展開しました。 素材として木の枝やラフな板材を組み合わせた「Animali Domestici」シリーズ、鮮やかなカラーとハンドペイントを取り入れたキャビネット「Cetonia」などは、機能だけでなくコンセプトやストーリーを前面に押し出した作品群です。
さらに、限定生産の「Zanotta Edizioni」では、工業製品でありながら一点ごとに手作業の要素を組み込むことで、量産とアートピースの中間に位置づけられる家具を追求してきました。 こうした取り組みは、ブランドを単なる“家具メーカー”ではなく、「デザイン文化を実験し発信するプラットフォーム」として位置づける役割を果たしています。
現在のコレクションと製品レンジ

現在のZanottaは、クラシックな名作の復刻と、現代のニーズに合わせた新作コレクションを並行して展開しています。 ラインナップはソファ、アームチェア、チェア、テーブル、デスク、ベッド、収納、コンソール、アクセサリーなど、住宅・オフィスを幅広くカバーするフルレンジとなっています。
プロダクトの多くは、分解しやすい構造やリサイクルしやすい素材選定など、サステナビリティを意識した設計が特徴です。 また、張地や仕上げの選択肢も比較的豊富で、クラシックなデザインを現代のインテリアにフィットさせるためのカスタマイズ性も重視されています。
Zanottaの位置づけと資産価値の視点

Zanottaは、カッシーナやB&B Italiaといったメジャーブランドと並び、イタリアンモダンの文脈では“文化的価値の高いブランド”として評価されることが多い存在です。 特に1960〜80年代のオリジナル品や、Saccoなど美術館収蔵作品に該当するモデルは、ヴィンテージ市場でもコレクタブルとして扱われやすい傾向があります。
一方で、実験性の高いデザインゆえに、万人受けする普遍的な意匠だけでなく、強いコンセプトや造形を持つ「通好み」のピースも多いブランドです。 そのため、Zanottaの家具は単にインテリアを整えるためというより、「空間にストーリーや批評性を持ち込むためのプロダクト」として導入されるケースが少なくありません。