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【名作椅子の宝庫】カールハンセン&サン

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カールハンセン&サン(Carl Hansen & Søn)について

 

カールハンセン&サンは、1908年にデンマークのオーデンセで創業された北欧を代表する家具メーカーです。創業から115年以上の歴史を持ち、特にデンマークの巨匠ハンス・J・ウェグナーの名作椅子を数多く製造していることで世界的に知られています。北欧デザインの伝統と職人技術を今日まで受け継ぎ、タイムレスな美しさと機能性を兼ね備えた家具を作り続けています。

歴史と発展

カールハンセン&サンは、1908年に家具職人のカール・ハンセンによって設立されました。創業地のオーデンセは、デンマーク第三の都市であり、童話作家ハンス・クリスチャン・アンデルセンの生誕地としても知られる文化的な町です。

創業当初は、伝統的なデンマーク家具の製造を手がけていました。カール・ハンセンの息子ホルガー・ハンセンが経営に加わると、会社は徐々に規模を拡大していきます。し920年代から1930年代にかけて、デンマークでは機能主義デザインが台頭し、カールハンセン&サンもこの新しい潮流を取り入れ始めました。

ブランドの転機となったのは1950年です。この年、若き家具デザイナーのハンス・J・ウェグナーとのコラボレーションが始まります。ウェグナーがデザインした「Yチェア(CH24)」の製造を開始したことで、カールハンセン&サンは世界的な注目を集めることになりました。

1960年代から1970年代にかけて、デンマークデザインは国際的に高い評価を受け、カールハンセン&サンの家具も世界中に輸出されるようになりました。しかし、1980年代には安価な輸入家具の影響で北欧の伝統的な家具メーカーは苦境に立たされます。

2000年代に入り、クヌード・エリック・ハンセンがCEOに就任すると、ブランドの再興が始まります。彼はウェグナーの名作を中心とした製品ラインの再構築、品質管理の徹底、グローバル展開の強化を推進しました。この戦略が功を奏し、カールハンセン&サンは再び世界的なプレミアム家具ブランドとしての地位を確立しました。

デザイン哲学

カールハンセン&サンのデザイン哲学は、「タイムレスデザイン」「クラフツマンシップ」「サステナビリティ」という3つの柱で支えられています。

タイムレスデザインとは、一時的な流行に左右されない普遍的な美しさを持つデザインを意味します。ウェグナーの椅子が70年以上経った現在でも色褪せない魅力を放っているように、カールハンセン&サンの家具は時代を超えて愛される作品であることを目指しています。

クラフツマンシップについては、熟練職人による手作業を重視しています。特に木材の曲げ加工や接合部の仕上げなど、機械では実現できない精緻な作業が、製品の品質と美しさを支えています。

サステナビリティに関しては、持続可能な木材の使用、長寿命な製品の製造、修理サービスの提供など、環境と社会に配慮した経営を実践しています。

ハンス・J・ウェグナーとの関係

カールハンセン^サンを語る上で、ハンス・J・ウェグナー(1914-2007)との関係は欠かせません。ウェグナーは生涯で500種類以上の椅子をデザインした「椅子の巨匠」として知られ、その多くの名作がカールハンセン&サンによって製造されました。

**Yチェア(CH24)**は、1950年に発表されたウェグナーの代表作です。中国の明代の椅子からインスピレーションを得たこのデザインは、Y字型の背もたれとペーパーコードで編まれた座面が特徴です。発表から70年以上経った現在でも年間数万脚が製造され続けているベストセラーで、世界中のレストラン、ホテル、個人宅で愛用されています。

ウィッシュボーンチェアとも呼ばれるこの椅子は、製造に100以上の工程を要し、特に背もたれのスチームベント(蒸気曲げ)加工には高度な職人技術が必要です。座面のペーパーコードは一脚あたり約120メートル使用され、熟練職人が手作業で編み上げます。

CH07 シェルチェアは、1963年にデザインされた三枚貝のような有機的なフォルムを持つラウンジチェアです。成形合板の技術を駆使した傑作で、包み込まれるような座り心地が特徴です。

**ザ・チェア(PP501)**は、1949年にデザインされ、「世界で最も美しい椅子」と称されました。1960年のアメリカ大統領選でのケネディとニクソンのテレビ討論会で使用されたことでも有名です。ただし、この椅子は現在PPモブラーが製造しています。

CH468は、2014年に発表された最後のウェグナーデザインで、彼の没後に図面から復刻された作品です。

カールハンセン&サンは現在、ウェグナーの40以上のデザインを製造しており、その全てがオリジナルの図面に忠実に、当時と同じ製造方法で作られています。

その他のデザイナーとコラボレーション

ウェグナー以外にも、カールハンセン&サンは多くの著名デザイナーとコラボレーションしています。

オーレ・ヴァンシャーは、1950年代にデンマークデザインを牽引した建築家・デザイナーです。彼がデザインした**コロニアルチェア(OW149)**は、英国のコロニアルスタイルとデンマークのモダニズムを融合させた名作で、2016年にカールハンセン&サンが製造を開始しました。

ボーエ・モーエンセンもデンマークデザインの巨匠の一人です。彼の**スパニッシュチェア(BM36)**は、スペインの伝統的な椅子をモダンに解釈した作品で、レザーの座面と背もたれが特徴です。

フリッツ・ハンセン(人名)がデザインした作品や、現代デザイナーとのコラボレーションも展開しています。近年では、安藤忠雄やハイメ・アジョンなど、国際的なデザイナーとも協働しています。

安藤忠雄とのコラボレーションでは、日本の美意識とデンマークの職人技術が融合した椅子「夢」が生まれました。この作品は建築家による家具デザインの秀作として高く評価されています。

製造技術とクラフツマンシップ

カールハンセン&サンの工場は、デンマークのゲルステッドとアーズにあります。ここでは約300名の職人が働き、年間約20万点の家具を製造しています。

木材加工において、特に重要なのがスチームベント(蒸気曲げ)技術です。木材を蒸気で柔らかくし、金型にはめて曲線を作り出すこの技術は、高度な職人技能を要します。Yチェアの背もたれや、多くのウェグナーチェアの曲線部分がこの技術で作られています。

ペーパーコードの座面編みも、カールハンセン&サンの重要な技術です。一脚の椅子を編み上げるのに約1時間かかり、均一な張力と美しい模様を作り出すには長年の経験が必要です。

木材の接合には、伝統的なホゾ組みや指組接ぎなどの技法が用いられ、釘やネジを最小限に抑えた美しい仕上がりを実現しています。

表面仕上げでは、石鹸仕上げ、オイル仕上げ、ラッカー仕上げなど、複数の選択肢が用意されており、それぞれが木材の質感を最大限に引き出します。

素材へのこだわり

カールハンセン&サンは、主に北欧産のオーク材、ビーチ材、ウォルナット材、チェリー材などを使用しています。これらの木材は、持続可能な森林管理が行われている供給源から調達され、FSC認証を取得しています。

各木材には独特の特性があり、製品に応じて最適な材料が選ばれます。オーク材は硬く耐久性に優れ、美しい木目が特徴です。ビーチ材は曲げ加工に適しており、多くの曲線的なデザインに使用されます。

木材は工場到着後、適切な含水率になるまで時間をかけて乾燥されます。この工程を丁寧に行うことで、完成後の歪みや割れを防ぎます。

レザーについても、高品質な北欧産のレザーを中心に使用しており、自然な風合いを活かした仕上げが特徴です。

サステナビリティへの取り組み

カールハンセン&サンは、環境への配慮を企業活動の中核に据えています。

すべての木材は、FSC認証またはPEFC認証を取得した持続可能な森林から調達されています。また、製造過程で発生する木材の端材や木屑は、バイオマスエネルギーとして工場の暖房に利用され、廃棄物をほぼゼロにしています。

製品の耐久性を高めることで、長期間使用できる家具を提供し、使い捨て文化に対抗しています。多くのカールハンセン&サンの家具は、適切にメンテナンスすれば100年以上使用できる設計になっています。

また、修理サービスも提供しており、古い家具の部品交換や再仕上げを行うことで、製品寿命をさらに延ばしています。

エネルギー面では、工場での再生可能エネルギーの使用を増やし、CO2排出量の削減に取り組んでいます。

グローバル展開

カールハンセン&サンの製品は現在、世界80カ国以上で販売されています。主要市場は北欧、ヨーロッパ、北米、アジアで、各地域に直営店やパートナーショールームを展開しています。

フラッグシップストアは、コペンハーゲン、東京、ニューヨーク、ロンドンなどにあり、ブランドの世界観を体験できる空間として設計されています。

日本市場は特に重要な位置づけで、東京の青山や大阪などにショールームがあります。日本の顧客はクラフツマンシップと本物の品質を重視する傾向があり、カールハンセン&サンの哲学と合致しています。

ブランドの現在と未来

現在、カールハンセン&サンは家族経営から株式会社へと形態を変えながらも、創業の理念を守り続けています。クヌード・エリック・ハンセンCEOのリーダーシップのもと、伝統と革新のバランスを保ちながら成長を続けています。

デジタル技術の活用も進めており、ARを使った家具配置シミュレーションや、オンラインでのカスタマイゼーションサービスなどを提供しています。

しかし、最も大切にしているのは、職人技術の継承です。若手職人の育成プログラムを実施し、伝統的な技術を次世代に引き継ぐ努力を続けています。

カールハンセン&サンは、100年以上の歴史が培った職人技術と、タイムレスなデザイン、そして環境への配慮という3つの柱で、これからも世界中の人々に愛される家具を作り続けていくでしょう。本物の品質と美しさを求める人々にとって、カールハンセン&サンの家具は一生を共にできるパートナーなのです。

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