COLUMN家具に関するコラム

【モダン家具の代表格】ハーマンミラーについて

ブランド

ハーマンミラー(Herman Miller)について

ハーマンミラーは、1905年にアメリカ・ミシガン州ジーランドで創業された世界的な家具メーカーです。120年近い歴史を持ち、特にオフィス家具とモダンデザインの分野において革新的な製品を生み出し続けてきました。20世紀を代表するデザイナーたちとコラボレーションし、家具デザインの歴史を変えた数々の名作を世に送り出しています。現在では世界100カ国以上で事業を展開し、家具業界のリーディングカンパニーとしての地位を確立しています。

歴史と発展

ハーマンミラーの歴史は、1905年にD.J.デプリーが設立した「スター・ファニチャー・カンパニー」に始まります。当初は伝統的なスタイルの木製家具を製造する小規模な会社でした。

1923年、デプリーの義理の息子であるハーマン・ミラーが会社に参画し、経営に深く関わるようになります。彼の死後、1923年に会社名が「ハーマンミラー・ファニチャー・カンパニー」に変更されました。

ブランドの転機となったのは1930年代です。デプリーの息子D.J.デプリー・ジュニアが経営を引き継ぐと、伝統的な家具製造から近代的なデザインへの転換を決断しました。彼は家具デザイナーのギルバート・ローデを起用し、モダンデザインの家具製造を開始します。この大胆な方向転換が、後のハーマンミラーの成功の基盤となりました。

1946年、ジョージ・ネルソンがデザインディレクターに就任します。ネルソンは建築家、デザイナー、著述家として活躍していた人物で、彼のリーダーシップのもと、ハーマンミラーは世界最高のデザイナーたちとコラボレーションする体制を確立しました。

ネルソンは、チャールズ&レイ・イームズ夫妻、イサム・ノグチ、アレキサンダー・ジラードなど、当時の最先端デザイナーたちをハーマンミラーに招き入れました。この戦略により、1950年代から1960年代にかけて、ハーマンミラーは数々の革新的な製品を発表し、モダンデザインのアイコン的ブランドとなりました。

1968年には、ロバート・プロプストが開発した「アクションオフィス」システムを発表します。これは世界初のモジュラー型オフィス家具システムで、オープンプランのオフィス環境を可能にしました。この革新的なコンセプトは、現代のオフィスデザインの基礎を築きました。

1990年代には、ビル・スタンフとドン・チャドウィックによる「アーロンチェア」を発表し、オフィスチェアの概念を一新しました。このチェアは大ヒット商品となり、ハーマンミラーの代名詞的存在となっています。

デザイン哲学

ハーマンミラーのデザイン哲学は、「問題解決型デザイン(Problem Solving Design)」という考え方に基づいています。単に美しい家具を作るのではなく、人々が直面する実際の問題を解決する製品を開発することを重視しています。

「デザインとは、問題に対する解決策である」という信念のもと、人間工学(エルゴノミクス)、機能性、美しさを統合した製品づくりを追求してきました。人がどのように座り、働き、生活するかを深く研究し、その知見を製品設計に活かしています。

また、「良いデザインは長持ちする」という考えから、一時的な流行に左右されないタイムレスなデザインを目指しています。50年以上前にデザインされた製品が現在でも製造され、愛用され続けていることが、この哲学の正しさを証明しています。

イノベーションへの情熱も、ハーマンミラーの重要な特徴です。新しい素材、製造技術、デザインアプローチを積極的に取り入れ、常に業界の最先端を行く製品を生み出してきました。

代表的なデザイナーとコラボレーション

ハーマンミラーは、20世紀を代表する数々のデザイナーとコラボレーションしてきました。

チャールズ&レイ・イームズ夫妻は、ハーマンミラーを代表するデザイナーです。1946年から関係が始まり、数々の名作を生み出しました。

「イームズラウンジチェア&オットマン」(1956年)は、成形合板とレザーを組み合わせた最高級のラウンジチェアで、現代的な快適さとエレガンスを体現しています。MoMA(ニューヨーク近代美術館)のパーマネントコレクションに選ばれ、「世界で最も有名な椅子の一つ」と称されています。

「イームズシェルチェア」(1950年)は、プラスチック製の一体成形シートを使用した革新的なデザインで、軽量で積み重ね可能、多様な脚部と組み合わせられる柔軟性が特徴です。

「イームズアルミナムグループチェア」(1958年)は、アルミニウムフレームと革または布のシートを組み合わせた洗練されたデザインで、オフィスから住宅まで幅広く使用されています。

ジョージ・ネルソンは、デザインディレクターとしてだけでなく、デザイナーとしても多くの作品を残しました。

「ネルソン・マシュマロソファ」(1956年)は、18個の円盤状クッションをスチールフレームに配置した独創的なデザインで、彫刻的な美しさを持っています。

「ネルソン・ボールクロック」などの時計シリーズも人気があり、ミッドセンチュリーモダンのアイコンとなっています。

「ネルソン・プラットフォームベンチ」は、シンプルな木製スラットのベンチで、ベンチとしてだけでなく、テーブルや収納の上など多目的に使用できます。

イサム・ノグチは、日系アメリカ人の彫刻家・デザイナーで、「ノグチテーブル」(1947年)を生み出しました。彫刻的な木製脚と厚いガラス天板を組み合わせたこのテーブルは、機能的な家具でありながらアート作品のような存在感を持っています。

アレキサンダー・ジラードは、テキスタイルデザイナーとして、ハーマンミラーの製品に色彩と模様をもたらしました。彼の鮮やかで幾何学的なファブリックデザインは、今日でも人気があります。

ビル・スタンフドン・チャドウィックは、「アーロンチェア」(1994年)と「エンボディチェア」(2008年)をデザインしました。これらは人間工学に基づいた革新的なオフィスチェアで、長時間の作業でも快適性を保つ設計となっています。

イヴ・ベアールユーリ・コヌスといった現代デザイナーとも協働し、「セイルチェア」「コスモチェア」など、新世代のオフィスチェアを開発しています。

代表的な製品

アーロンチェアは、1994年の発売以来、世界で最も有名なオフィスチェアとなりました。背もたれと座面に通気性の高い「ペリクル」素材を使用し、長時間座っても蒸れにくい設計です。人間工学に基づいた調整機能が豊富で、体格や好みに応じて細かくカスタマイズできます。2016年には、さらに進化した「アーロンチェア リマスタード」が発表されました。

エンボディチェアは、座る人の動きに合わせて背もたれが追従する「バックフィット調整」機能を持ち、血流を促進し、酸素供給を最適化する設計となっています。長時間のデスクワークやゲーミングに適しており、多くのプロフェッショナルから支持を得ています。

イームズラウンジチェア&オットマンは、発売から60年以上経った現在でも、ハーマンミラーのアイコン的製品です。ブラジリアンローズウッド(現在はサステナブルな代替材も使用)の成形合板とプレミアムレザーを組み合わせ、最高級の快適さを提供します。

セイルチェアは、より手頃な価格帯でありながら、優れた人間工学的サポートを提供するオフィスチェアです。3Dインテリジェントバックが背中の動きに追従し、Y字型のフレームが特徴的なデザインとなっています。

ネルソン・プラットフォームベンチは、ミッドセンチュリーモダンの代表的な家具で、シンプルながら多機能な使い方ができます。エントランス、リビング、寝室など、様々な空間で活躍します。

製造技術とイノベーション

ハーマンミラーは、常に最新の製造技術と素材を探求してきました。

1940年代には、成形合板技術を家具製造に応用し、イームズチェアの量産を可能にしました。1950年代にはファイバーグラス強化プラスチックの一体成形技術を開発し、軽量で耐久性の高い椅子を実現しました。

1990年代には、メッシュ素材「ペリクル」を開発し、アーロンチェアに採用しました。この素材は通気性が高く、体圧を均等に分散させる特性を持っています。

また、3D編み技術を使用した「コスモチェア」など、テキスタイル技術の革新も進めています。

製造拠点は主にアメリカ国内にあり、ミシガン州を中心に複数の工場を運営しています。厳格な品質管理のもと、高品質な製品を生産し続けています。

サステナビリティへの取り組み

ハーマンミラーは、環境への配慮を企業活動の中核に据えています。1991年には環境品質アクションチーム(EQAT)を設立し、業界に先駆けて環境保護に取り組み始めました。

製品設計では、「ゆりかごからゆりかごへ(Cradle to Cradle)」という循環型デザイン哲学を採用し、製品のライフサイクル全体を通じた環境負荷の低減を目指しています。多くの製品が高い割合でリサイクル可能な素材で構成され、分解・再利用が容易な設計となっています。

アーロンチェアは、93%がリサイクル可能な素材で作られており、製造過程での廃棄物も最小限に抑えられています。

工場では再生可能エネルギーの使用を増やし、廃棄物のゼロエミッションを目指しています。また、製品の耐久性を高めることで、長期間使用できる家具を提供し、消費サイクルを延ばしています。

12年間の製品保証を提供しており、修理サービスも充実しているため、製品寿命を最大限に延ばすことができます。

グローバル展開と市場

ハーマンミラーは、世界100カ国以上で事業を展開し、オフィス家具市場でトップシェアを誇っています。主要市場は北米、ヨーロッパ、アジア太平洋地域です。

直営ショールームは世界の主要都市に展開されており、製品を実際に体験できる空間として設計されています。また、認定ディーラーネットワークを通じて、世界中で製品とサービスを提供しています。

2021年には、ゲーミング家具ブランド「ハーマンミラー・ゲーミング」を立ち上げ、eスポーツやゲーマー向けの製品展開を開始しました。ロジクール Gとのパートナーシップにより、ゲーミング市場への参入を果たしています。

また、2014年にはデンマークの高級オーディオメーカー「Geiger」を買収するなど、事業の多角化も進めています。

ブランドの現在と未来

現在、ハーマンミラーは「MillerKnoll」という持ち株会社の傘下にあります。2021年にKnoll社を買収し、両ブランドを統合した新たな企業グループを形成しました。この統合により、製品ラインナップがさらに拡充され、デザイン家具市場での地位を強化しています。

コロナ禍以降、在宅勤務の増加により、ホームオフィス家具への需要が急増しました。ハーマンミラーは、この変化に対応した製品開発とマーケティングを展開し、家庭用の高品質オフィス家具市場でも存在感を高めています。

また、スマートオフィス技術の開発にも投資しており、IoTやAIを活用した次世代のワークスペースソリューションを研究しています。

ハーマンミラーは、120年近い歴史の中で培ったデザインの伝統と革新性、人間工学への深い理解、そして環境への配慮という強みを活かしながら、これからも働く環境と生活空間を豊かにする製品を提供し続けていくでしょう。デザインの力で人々の生活の質を向上させるという使命は、今後も変わることなく受け継がれていくはずです。

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